建築からインテリアに。「錆びた鉄」で人気の企業が新事業に挑戦

「錆(サビ)を生かす鉄」で、独自の建築材を開発

おしゃれなマンションなどを訪れると、エントランスなどに凝ったデザインが施されていることがあります。また人気の商業施設やオフィスビルなどでも、デザイン性の高いファサードが建物全体のアイコンとなっていることもあり、建築業界でこれまで以上にデザインにチカラが入っていることが分かります。

株式会社フロントのロゴ

こうした建築デザインに関する業務を行っているのが、今回訪問した株式会社フロント。他社で扱っていない、独自の素材というアドバンテージがある会社なのです。

早速、取締役会長の松川兼成さんにお話を伺いました。

取締役会長 松川 兼成氏

「フロントが手がけている素材は『鉄』。それも耐候性鋼と呼ばれる独特な鉄です」

ステンレスなどの一般的な鉄と異なり、この耐候性鋼は普通鋼に銅やクロム、リンなどを加えて作られます。通常の鉄素材は、屋外で使用すると表面に錆が浮き始め、徐々に内部が腐食していくという欠点があります。一方の耐候性鋼も表面に錆が生じる点は同じなのですが、その錆が母材を保護し、腐食を食い止めるという特性を持っているのです。

この画期的な素材は、鉄橋など屋外での使用を目的に、アメリカで開発されました。それを知った松川さんは行動を起こしたといいます。

「今から50年前、私はステンレスを扱う会社で働いていたのですが、この耐候性鋼に魅力を感じて独立。会社を立ち上げました」

松川さんが特に魅力を感じたのは、錆による経年変化が生み出すその自然な風合い。錆に対してネガティブな印象を持つ人もいましたが、その風合いを生かしながらコーティングを施すといった手法を取り入れることで、他にはない独自の質感を持つ建築材を生み出すことができたのです。

20年ほど前から大手ゼネコンや設計事務所からの引き合いも多くなり、さまざまな建築物の意匠として、フロントの耐候性鋼が使われるようになりました。マンションやオフィスビルだけでなくテーマパークなどでも採用されているので、どこかで見かけたことがあるかもしれません。「いや、きっとありますよ。渋谷や吉祥寺などの駅でも採用されていますから」と松川さん。

吉祥寺駅の施工事例

今、注目を集めているのが地下鉄駅の構内での使用なのだとか。実は地下鉄の構内のような閉ざされた空間では、鉄のような耐火性に優れた建築材が求められているそうです。このように、従来の建築材とは異なるポテンシャルを持つ耐候性鋼。その可能性はこれからますます広がっていくのかもしれません。

手がけた仕事が未来に残るという“やりがい”

実際に現場で営業職として活躍されている方にもお話を伺いました。
西村直哉さんは、大学卒業後に食品業界の営業に勤務後、建築現場の現場作業員を経て、2015年4月にフロントに入社しました。

建材営業部 西村 直哉さん

「耐候性鋼という特殊な鉄に意匠を施して建築材として販売している会社は、日本でここだけなんですね。そうした会社の製品としての強みに惹かれて入社しました」

ちなみに、この錆が浮き出た耐候性鋼に一手間加え、コーティングを施すという技術はフロントが開発したのですが、特許は取っていないそうです。それはつまり、他社にはそう簡単には真似ができないという自信があるから。確かにこれは企業として大きなアドバンテージです。

入社した西村さんは、まず技術部に配属。建築現場での現場管理を中心に、材料の手配から職人さんの手配、補修など、幅広い業務を担当したそうです。そして入社から半年経った頃、営業部へ異動に。

「当社には、技術部で耐候性鋼や仕事の知識をしっかり身につけて営業部に、という人事の流れはあるのですが、多くの場合は技術部で何年も経験を積んでからになります。私の場合は、営業部の人員が足りなくなったことが理由なので、異動直後は非常に苦労しましたね」

耐候性鋼

営業部への異動により、業務内容も変わったという西村さん。それまではゼネコンの担当者や現場の職人と関わることが多かったそうですが、営業部に移ってからは設計事務所や施主と直接関わるようになったのだとか。

「設計事務所の方はこだわりも多く、当然とこちらに対する注文も多くなります。そうした注文の中には、技術的に不可能なこともあるので、技術部と相談し、それを設計事務所の方とすり合わせていくのです」

磨きのかけ具合や色の調整でまったく違う表情を見せるのが耐候性鋼の特徴。それらを設計事務所と話し合って決めていくのも、営業職の仕事なのだそうです。

「特に、できることと、できないことのジャッジには気をつけるようにしています。私が『いける』と思っても、技術部の判断で難しいということも多いので。技術部で経験を積んでいれば自分で判断できるのでしょうが、私の場合はなるべく連携を密にして取り組んでいます」

苦労も少なくないようですが、どんなところにやりがいを感じているのでしょうか。

「それはやはり、自分の携わったものが10年後も20年後も残っていることですね。『地図に残る仕事』というキャッチフレーズもありますが、それは建築に関わる仕事の大きなやりがいです。特にフロントが手がけるのは建築物の意匠部分。目に見える部分というだけでなく、その建物のシンボリックな部分でもあるのです。私の場合、前職が建物の解体を行う会社だったこともあって、自分の仕事がずっと残っていくことがとてもうれしいんです」

施工事例

インテリア分野にチャレンジする新事業がスタート

そんなフロントが、新たな事業に乗り出しました。これまでは、ゼネコンや設計事務所からの依頼に沿った建築材の製造・販売が主でしたが、自社でデザインを行い、販売していくと西村さんはいいます。

「これまで私たちが取り扱ってきた外壁などの建築材は、ゼネコンや設計事務所の方々が寸法や色合いなどの要望を打ち合わせし、それをベースに製造し、納品していました。受注製作は納期に時間がかかるため、決して効率的とはいえません。そこでマンションのエントランスにある玄関ドアや集合玄関機など、建築に関わる必需品を規格化し製造、販売することにしました」

耐候性鋼を使ったインテリア

こうした製品の販売のため、フロントでは「NAGOMI事業部」という新部署を設立。この部署では建築に関する製品だけでなく、耐候性鋼という素材の特性を生かした家具類も製造・販売していきます。

「今回募集するのは、このNAGOMI事業部の人材です。既に製品化されたものを販売していくので、設計事務所の方と膝をつき合わせてといったこともなく、この業界が初めての人でも取り組みやすいのではないでしょうか」

商談中の西村さん

これまでのフロントにはいないような人材に期待!

では、今回の募集ではどのような人材を求めているのでしょうか。

「これまでのフロントとは異なる分野でもあり、今までとは違う人材を求めています。これまでは、中途採用でも建築関連の仕事に携わっていた人の採用が多かったのですが、たとえばインテリアに興味があるような人など、私たちと視点が異なる人がいいですね」

技術部スタッフと打ち合わせ

このように新しい視点という考え方に加え、現在勤務している社員の平均年齢が比較的高いことから、ぜひ若い人に来て欲しいそうです。

「先日も若い方が面接に来られましたが、耐候性鋼を見て『掛け時計の文字盤に使うと面白いですね』という意見が出たんですね。そうした視点は我々にはなかったので、非常に面白いなと思いました」

それと同時に、ポジティブな心を持っている人がいいと語る西村さん。

「上司が『もちろんこの会社でずっと働いてほしいけれど、いつまでもこの会社で働くという想いだと、それなりの仕事しかできなくなる。いつでも転職できるくらいのスキルを培っておきなさい』と、よくおっしゃっているんです。だから、いろんな仕事の依頼があっても断らないようにしています」

現在も従来の営業部の業務に加えて、NAGOMI事業部の業務にも携わっているのだとか。忙しい毎日ですが、結局、自分のプラスになるのだからと、前向きに取り組んでいるそうです。

デスクワーク

そして、会社自体の今後の展望はどのように考えているのでしょうか。たとえば海外への展開などは?

「展示会などでフロントの製品を見た海外の企業からの引き合いはありますね。すでに海外で事業を展開しているゼネコンや設計事務所に製品を納めたりしているので、将来的には海外に事業所を置いて、ワールドワイドに展開していくということもあるかもしれません。ただ、日本というマーケットにフロントの製品が浸透しているとは言い切れません。建築家の中にもこの素材を知らない方がいるので、まずは国内での普及に努めたいですね」

社名は知らなくても、その素材や製品は多くの人が知っている。そしてオンリーワンの技術でオリジナルの製品を世に送り出しているフロントは、建築やインテリアに興味がある人、そして何か新しいことに取り組みたい人に、ぜひ注目してもらいたい企業だと感じました。

耐候性鋼を使ったインテリアの模型とパンフレット